FX業界

ゲムフォレックスの「サービス停止」と出金遅延

5月31日、出金遅延の続いていたGEMFOREX(ゲムフォレックス)がサービス停止を発表し、波紋が広がっています。ゲムフォレックスは日本で人気を集めた海外FX業者でしたが、昨年12月から出金の遅延が続いており、先行きが懸念されていました。今回のサービス停止は「Xデーがついに来た」という印象です。

ここではゲムフォレックスと、その周辺で何が起きたのか、被害者が何に気をつけるべきかを見ていきたいと思います。

ゲムフォレックスHPより

!!!はじめに!!!  GEMFOREX(ゲムフォレックス)から出金されていない方へ

今後は「代わりに回収します」「一緒に集団訴訟しましょう」「ゲムよりいい業者を紹介します」といった誘いが増えます。ただ、その中には詐欺師や反社会的勢力なども含まれているでしょう。二次被害を被る、粗悪なスキャム業者へ誘導されるといったことだけでなく、あなた自身が犯罪者になる可能性すらあります。まずは国民生活センターや弁護士など信頼できる機関へ相談してみてください。

ゲムフォレックスはどんな会社だったのか

ゲムフォレックスがどんな会社だったのか、概観しておきます。

SNSをさかのぼるとゲムフォレックスがサービスを開始したのは2010年、11年ころと思われます。2011年には下記のようなツイートがありました。講師名が「GEMTRADE富山智弘氏」となっています。「GEMTRADE」はゲムフォレックスの法人名です。

ForexPros主催:無料ウェブセミナー

題目:今話題のFX自動売買ソフトウェア メタトレーダーを体験しよう! 

日時:5月31日(火)20:00~20:45

講師:GEMTRADE富山智弘氏

URL:www.forexpros.jp

参加人数無制限ご登録はサイトよりどうぞ

ツイッターより

FX会社であれば金融庁の「金融商品取引業者」に名前があるはずですが、ゲムフォレックスの名前は見当たりません。ゲムフォレックスの名前が載っているのは「無登録で金融商品取引業を行なう者」の一覧です。ゲムフォレックスに対しては、2015年時点ですでに警告が出ていました。

https://www.fsa.go.jp/ordinary/chuui/mutouroku/03.pdf

ゲムフォレックスは日本の金融庁に登録せず営業する海外FX会社ですが、ウェブサイトのトップページにはセントビンセント・グレナディーン金融庁への登録情報が記載されています。

ところが同国の金融庁にアクセスすると、同国では外国為替取引の仲介は許可されていない旨の警告が大きく表示されます。この時点で、信頼性に欠ける会社だと判断する人も多いでしょう。

https://svgfsa.com/

日本人による日本人のための海外FX会社

そんなゲムフォレックスですが、日本人向けに特化した海外FX会社です。ゲムフォレックスのウェブサイトへのアクセスは99%が日本からとなっています。

ゲムフォレックスは運営も日本人です。先ほど引用したツイートにも「講師:GEMTRADE富山智弘氏」と日本人の名前がありましたが、ゲムフォレックス自身が「運営スタッフは全員日本人」とあきらかにしています。

ゲムフォレックスHPより

ゲムフォレックスがどんな会社かといえば「日本人が運営し、日本人を顧客とする海外FX会社」です。海外に拠点を置くことで日本の法規制から逃れ、レバレッジやキャンペーンなどについての自由度を高めることができます。動画配信サイトのFC2のようなイメージです。

2022年12月から出金遅延が多発した

ゲムフォレックス周辺では昨年12月から「出金されない」とのツイートが相次ぎました。出金申請の1か月後に出金されればいいほうで、いつまでたっても出金されない人も多数見られました。

ゲムフォレックスの出金遅延が表面化する直前、別のもう少し規模が小さな海外FX会社でも同じような出金遅延が起きていました。そのため「次はゲムか?!」と騒動が大きくなった面もあります。

これに対してゲムフォレックスは「ツイートしないように」「問い合わせは控えるように」と異例の呼びかけを行なっています。

出金遅延についてのツイートが増えて、「出金が遅れてるの? じゃあ私も急いで出金申請しなきゃ」と不安が連鎖し、出金申請が相次ぐ「取り付け騒ぎ」を恐れての呼びかけでしょう。

日本のFX会社であれば、顧客から預かった資金は全額、信託銀行に信託保全する義務があります。取り付け騒ぎが起きても、基本的に出金されないことはありません。預かり資産の安全性という面では世界的にトップレベルのスキームだと思われます。

海外FX業者の場合、顧客資産の保全スキームはまちまちでゲムフォレックスでは顧客資産と会社資産を分けて管理する「分別管理」を行なっていたようです。分別管理は信託保全に比べ信頼性の低いスキームです。信託保全が義務化される以前の日本でも、分別管理をうたうFX会社が顧客資産を使い込んでいたことがありました。

被害額は数十億円~190億円程度か

被害額=出金されていない金額がどのくらいあるのでしょうか。ざっくり推測してみます。

サービス停止直前、ゲムフォレックスの口座数は約88万でした。国内FXでトップクラスのGMOクリック証券でも78万口座ですから、ほぼ日本人だけを相手に営業していたはずのゲムフォレックスがGMOクリック証券を上回るというのは、にわかに信じがたい数字です。

ここにはカラクリがあります。ゲムフォレックスでは1アカウントで8口座まで開くことが可能で、1人が複数口座を持つことはザラにありました。

利用者1人あたり4口座を開いていたとすると88万口座÷4で実際の利用者は22万人です。GMOクリック証券の4分の1くらいなので預り証拠金も4分の1とすると約660億円になります。無事に出金された人も多かったと思いますが、2023年5月時点でも、2022年12月出金申請分のうち29%が未出金となっていたようです。660億円のうち29%が未出金だったとすると約190億円です。

ものすごくおおざっぱな計算なので目安にすぎない数字ですが、非常に大きな金額です。190億円はおおげさかもしれませんが、少なくとも数十億円の被害にはなるのではないでしょうか。

なぜゲムフォレックスは出金できなくなったのか

そもそもゲムフォレックスが88万もの口座を獲得したのは、高額の入金ボーナスや5000倍でのレバレッジ取引、EA(自動売買)の無料提供など、国内FX会社にはない魅力があったためです。海外FX業者につきものの出金拒否トラブルも、以前は比較的少なかったようです。

そのため、「少ない資金を入金ボーナスで増やし、ハイレバ取引で大きく増やしたい」といった人の支持を集めていました。

アフィリエイターやインフルエンサーの影響も大きかったのではないかと思います。海外FX業者では、「1口座開設あたり○万円」といった通常のアフィリエイトに加え、「1取引ごとに○円」といった「IB」(Introducing Broker)が一般的です。IB形式だと紹介者は継続的に報酬を受け取れるため、アフィリエイト活動にも熱が入りやすくなります。

ゲムフォレックスの経営危機が露呈したのは、このIBもきっかけのひとつでした。海外FX業者のIB案件を多く扱っている大手サイトが、ゲムフォレックスからのIB報酬が一部未払いになっていると発表したのです。

この発表とほぼ同時にゲムフォレックスは出金手続きの遅れや、その原因として1350人のユーザーが規約に反する取引を行なっていることなどを発表しました。

なぜゲムフォレックスは出金できなくなったのか。のちに発表されたことも含めゲムフォレックス側の説明をまとめると、このような流れです。

ゲムフォレックスが説明する出金遅延の理由

  1. 2022年後半、決済代行会社2社からの持ち逃げ、未払いが発生
  2. 利用規約に反した取引が横行
  3. LP(カバー先)からの審査が長期化
  4. 一部顧客に対して収入証明を求めるなど出金遅延が発生
  5. 収納代行会社やメタクオーツ社などゲム取引先へのクレームが多発
  6. クレームの影響で収納代行会社からゲムへの入金が遅延
  7. サービス休止へ(そもそもの原因である1や2の解決のため)

1については後述するとして、とくに重要なのは2の利用規約に反する取引だと思われます。

1:集団による第3者名義貸し&口座転売

2022年中頃から集団による第3者名義貸し&口座転売にて利用規約違反によるボーナスアービが横行し大きな損失が発生。現在、主犯格グループと関わった人物について捜査中となります。示談が成立しない場合は訴訟に入る予定でおります。今後の情報についても本サイトにて報告して参ります。

ゲムフォレックスHPより

入金ボーナスを利用した両建て手法

ゲムフォレックスの説明内に「利用規約違反によるボーナスアービ」との単語がありますが、いったいどんな取引があったのでしょうか。

ゲムフォレックスでは「100%入金ボーナス」が人気でした。入金額の100%がボーナスとして付与され、たとえば50万円を入金したら100万円分の取引が可能になるサービスです。入金ボーナスを利用すると、ほぼリスクフリーで儲けることができます。手法は簡単です。

ゲムフォレックスと、もう1つの口座Bを用意します。ゲムフォレックスでドル円をロング、口座Bではショートします。2口座とも取引資金は100万円、利益確定は資金が2倍になった時点です。

ドル円が下落すればロングしたゲムフォレックス口座はゼロになりますが、口座Bは100万円の利益となります。ゲムフォレックスでは損失100万円、口座Bでは利益100万円なので収支はゼロです。

しかし、ゲムフォレックスでは100%入金ボーナスを利用したので入金額は50万円です。損失は100万円ではなく50万円ですから、口座Bの利益100万円と差し引きすると50万円の利益が残ります。

もし上昇した場合はゲムフォレックス口座で利益100万円、口座Bで損失100万円なので損益はゼロです。

これを繰り返すと、利益が積み重なっていくことが容易に想像できます。

もうひとつ重要なのが、ゲムフォレックスがいわゆる「B-Book」業者だった、ということです。顧客からの注文がきたとき、FX会社の裁量を交えずすべて外国為替市場へ流すビジネスモデルは「A-Book」と呼ばれます。

一方、B-Bookでは顧客から注文がきたときにディーラーやプログラムがカバーするタイミングや、カバーせずに自社のポジションとするかなどを判断します。国内FX会社のほとんどがこのビジネスモデルです。

「AとBどちらがよいか」という話ではありません。国内FX会社が狭いスプレッドを提供できるのはBだからこそ、です。またB-Bookとはいえ、国内FX会社の多くは、タイミングの差こそあれ、ほとんどの注文をカバーしています。

問題は「カバーしないB-Book」、いわゆる「ノミ」です。この場合、顧客とFX会社は完全に利益相反となり「顧客の損は業者の利益/顧客の利益は業者の損」です。

もしゲムフォレックスがノミ業者だったとすると、顧客が入金ボーナス両建て手法で儲けた利益は、そのまま利益はゲムフォレックスの損失となります(実際にそうだったかはわかりません)。

ちなみに単純な入金ボーナス両建て手法だと、取引履歴から「コイツやってんな」ということが一目瞭然なので、実際にはもっと複雑化して行なっていたものと思われますし、クレジットカード入金なども利用して組織的に行なわれていたのかもしれません

自転車操業となり資金獲得に躍起になった

こうした入金ボーナスを利用した両建て手法などをきっかけにして、ゲムフォレックスの資金繰りが悪化したのは可能性が高そうに思われますし、その結果、「入金があれば出金に充てる」といった自転車操業に陥っていったようです。

新規の入金を促すためか、出金遅延が表面化した12月以降もゲムフォレックスでは入金ボーナスや新たなサービスなどを展開していました。

また独自の仮想通貨「GEMFOREXコイン」の販売や、有料の会員制サービス「GEMメンバーシップ・パス」(GMP)なども始めています。悪化する資金繰りを改善するため、現金集めに躍起になっていたのではないかと推測できます。

ゲムフォレックス側では、今回のサービス停止の原因を3つあげています。

  1. 利用規約違反によるボーナスアービ
  2. 決済代行会社A社による約50億円の持ち逃げ
  3. 決済代行会社B社による約10億円の未払い

2と3の持ち逃げ、未払いは金額が非常に大きいのですが、2022年後半に発生したとしているにもかかわらず、ゲムフォレックスがおおやけにしたのは5月15日です。出金が遅れ始めた12月時点では公開されていませんでした。

「とってつけた説明ではないか」との印象はぬぐえませんし、なかには「決済代行社のA社、B社とグルになって持ち逃げしているのでは」と勘ぐる人だっているかもしれません。そうした疑り深い人は今回の経緯を次のように推測するのではないでしょうか。

ゲムフォレックスサービス停止に対する猜疑心が強い人の推測

  1. 入金ボーナス両建て手法でゲムの資金繰りが悪化
  2. SNSでの炎上により取り付け騒ぎに
  3. 新規入金が減少、「入金額<出金額」となり自転車操業がまわらなくなる
  4. 顧客のクレーム、信頼性低下によりMT4などの取引システムが利用できなくなる
  5. ビジネスの継続が不可能と判断してサービス停止へ
  6. 架空の事業売却交渉で時間を稼ぎ残った資金とともに逃亡

うがった見方ですし、こんなことが起きているとは信じたくありませんが、実際に何が起きているのかはゲムフォレックスの経営陣にしかわかりません。

ゲムフォレックスはどうなるのか

ゲムフォレックスの発表では現在、事業継承の交渉を進めているといいます。7月中に譲渡手続きを終わらせ、8月1日以降に今後のガイドラインを発表する、とのことです。

買収交渉でゲムフォレックスが提示している額は10億ドル(約1400億円)です。FX会社のM&Aで基準となる要素のひとつが口座数です。

ゲムフォレックスHPより

ゲムフォレックスの口座数は前述のように88万口座ですが、1人が最大8口座まで持てるため利用者数でいえば半分にも満たないと思われます。「話半分」とすると44万口座となり、国内FX会社でいえば外貨ex byGMOとほぼ同規模です。

2021年にGMOインターネットグループがワイジェイFX(現・外貨ex byGMO)を買収しときの価格は約300億円でした。それに対してゲムフォレックスの提示額は1400億円です。信頼性が著しく毀損している会社に対する値付けとしては高いと感じます。

もちろんベストシナリオは買収交渉がまとまり、サービスが再開され、未出金となっている分がすみやかに出金されることです。

ただ、これまでのゲムフォレックスの対応などを見ていると、そうならない可能性も低くないでしょう。最悪の場合は買収交渉がうやむなとなりゲムフォレックスが完全に経営破綻することもありえなくないと思います。

ゲムフォレックスの出金遅延とサービス停止までの流れ

2次被害にはくれぐれも気をつけて

いまだ出金されていない人に対しては、本当に気の毒に思います。

気をつけてほしいのは、こうしたとき被害者を狙った二次被害が起きやすい、ということです。「回収を代行します」「集団訴訟しましょう」といった誘いをかけてくる詐欺師もいます。「ゲムよりいい業者があるよ」とスキャム業者へ誘導するアフィリエイターはすでに確認されています。また回収の代行には弁護士資格が必要です。資格を持たずに回収代行を持ちかけるのは違法行為となります。

今は冷静になり、情報の真偽をよく見極めてください。ゲムフォレックスの件で信頼性が高い情報を発信しているのではと思うのは「海外FX調査兵団」さんです。

ただ、誰かに頼りきりになるのではなく自分で調べることを決して忘れないでください。

ツイッターではゲムフォレックスの運営者たちへの追求も始まっています。「1円でも多く回収したい」とする人の気持ちは理解しますが、犯罪者や詐欺師が相手であったとしても「超えてはならない一線」があることも忘れないでください。

詐欺師にだまされたお金を取り戻そうとして回収代行業者に依頼した人が逮捕された、といった事件は珍しくありません。

ゲムフォレックスが誠実に対応し、1円でも多く取り返せることを強く願います。

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